東京・上野の 国立科学博物館(台東区上野公園7-20)では、2025年11月1日(土)~2026年2月23日(月・祝)まで、「ビッグファイブ」と呼ばれる5つの大量絶滅に焦点を当てた特別展が開催されます。
今回、報道関係者向けのメディア内覧会に参加し、
- 総合監修の矢部淳氏(国立科学博物館 生命史研究部 進化古生物研究グループ長)、そして
- 音声ガイドを担当した俳優・福山雅治さんの言葉を取材してきました。
- この展示の総合監修を務めた矢部淳氏は、「絶滅は悲劇ではなく、未来への扉」と語り、
- 音声ガイドを担当した俳優・ 福山雅治 さんも「生きるとは、自ら生きることでもあり、生かされていることでもある」とメッセージを寄せています。
科学の視点と、ひとりの表現者の視点──両者の言葉には、過去を見つめながら“今をどう生きるか”を問いかける共通の想いが込められています。
「絶滅は終わりではなく、次の始まり」──総合監修者メッセージ

矢部淳氏:「絶滅」と聞くと、多くの方がネガティブな印象を持たれるかもしれません。
確かに悲しい側面もありますが、今回の展示では“大絶滅を通して新たな多様性が生まれる”という視点を大切にしています。
つまり、大絶滅を生き延びた生物たちがその後の世界で多様に進化し、その積み重ねの結果として、現在の豊かな生物世界があるということを紹介したいと考えています。
数億年、数千万年前という非常に遠い過去の出来事を解き明かすのは簡単ではありません。
しかし世界中の研究者が長年研究を重ね、近年はその仕組みや背景が少しずつ明らかになってきました。
本展では、そうした最新の研究成果を紹介するとともに、「なぜそれが分かったのか」という「科学的な証拠(エビデンス)」にも焦点を当てています。
この展示は、約4年間にわたりチーム一丸となって準備を進めてきました。
デザインや映像の制作に加え、モロッコでの現地調査なども行い、私たちの思いを詰め込んだ内容となっています。「絶滅」というテーマながら、会場は明るく、楽しい雰囲気を感じていただけると思います。
ぜひ多くの方に足を運んでいただき、この展示の魅力を広く伝えていただければ幸いです。
(編集:探究舎)
「生きる」と「生かされる」──福山雅治さんが見た大絶滅のメッセージ

自然との出会いと“原点”
——自然に興味を持たれたきっかけを教えてください。
福山氏:僕が自然に興味を持つようになったきっかけは、祖母の存在です。祖母はみかん畑を営んでいました。もともと農家ではなかったのですが、祖父の家に嫁いだ後、農業を受け継ぎ、一人で子どもを育てながら畑を守っていました。
小さい頃の僕の家には、牛がいて、囲炉裏があって、土間のある生活でした。便利とは言えませんが、自然とともに生きる豊かさと厳しさを子どもながらに感じていました。
天候に左右され、休むこともできない日々。自然は生きる糧を与えてくれる一方で、厳しくもある——。祖母の姿を通して「生きるとはどういうことか」を考えるようになりました。
その体験があったからこそ、自然番組『ホットスポット』の話をいただいた時も、単に“美しい自然を見に行く”というより、“祖母が生きた自然が今どうなっているのか”を知りたいという気持ちが強かったです。
環境破壊などが進む中で、人間と自然がどのように影響し合い、これからどこへ向かうのか。その現実をこの目で確かめ、伝えていきたいと思いました。
写真展示に込めた思い

第2会場では、福山さんが世界各地で撮影した写真27点と、本人によるキャプション、さらにステートメントが展示されています。
福山氏:
年齢を重ねる中で、「自分は何のために生まれ、生き、どう死んでいくのか」と考えるようになりました。
自分の原点をたどると、やはり母や祖母に行き着きます。音楽や芝居とは無縁の家系でしたが、祖母は自然という舞台の上で、みかんやお米を育てる“作品づくり”をしていたアーティストだったのかもしれません。
そう思うと、僕の創作活動もまた、祖母の生き方から影響を受けているのだと感じます。自然と人間の関わりを伝えることも、僕の使命の一つなのかもしれません。
展覧会を見て感じたこと
福山氏:
地球誕生から40億年というスケールの中で、約5億4,000万年前からの「大絶滅」をどのように表現するのか——とても興味深かったです。
地球そのものは生き続けていても、その上に存在する生命は何度も絶滅を経験してきました。
70〜90%もの生物が失われた“大絶滅”を経て、わずかに生き残った10%が次の時代の多様性をつくっていく。
それを考えると、今“第6の絶滅期”とも言われる時代に生きる私たちは、地球という生命体にとってどんな存在なのか——もしかすると、僕たちもまた地球の変化の一部、犠牲になる存在なのかもしれません。
そんなことを考えながら展示を拝見しました。
音声ガイドの裏側
今回の展示では、福山さんが音声ガイドを担当しています。
福山氏:
ラジオドラマのように楽しんでいただける構成になっています。効果音や音の演出も多く、音だけでも映像が浮かぶような作りです。
実は収録に5時間以上かけ、1度すべて録り終えたあとに「もう一度最初から」と撮り直しました(笑)。
それほどまでに思いを込めた音声ガイドです。ぜひ会場で聴いていただけたら嬉しいです。
子どもたちへのメッセージ
福山氏:
この展示を見て、「生きる」ということは、自分の意志で生きることでもあり、同時に“生かされている”ことでもあると感じました。
大絶滅では、ほとんどの生物が滅びましたが、生き残った一部が次の時代を築きました。
生き残るには、偶然や幸運もあるけれど、やはり“努力して掴む力”も必要なんだと思います。
勉強も、学校に通うことも、ときには面倒に思うかもしれません。けれど「学べる環境がある」こと自体が、実はとても恵まれたこと。
この展示を通して、「ちょっと怖いけど、でも生き抜く力を持ちたい」と感じてもらえたら嬉しいです。
自分の大切な人たちと、どうすれば一緒に生きていけるのか——そんなことを考えるきっかけになればと思います。
(編集:探究舎)





